「飛行機に乗って上空に上がった途端、急に歯がズキズキと痛み出した」——このような経験をしたことはありませんか。地上では何ともなかったのに、機内で突然歯の痛みに悩まされるというのは、決して珍しい話ではありません。今回は、飛行機で歯が痛くなるという現象について、そのメカニズムと対策を詳しく解説していきます。
飛行機で歯が痛くなるのは本当にある現象
結論から言うと、飛行機に搭乗した際に歯が痛くなるという現象は、実際に起こり得るものです。これは「航空性歯痛(こうくうせいしつう)」とも呼ばれ、航空医学の分野でも取り上げられている現象の一つです。すべての人に起こるわけではありませんが、特定の条件が重なった場合、機内で歯の痛みを感じることがあります。
なぜ飛行機で歯が痛くなるのか
気圧の変化による歯髄内の圧力変化
飛行機が上昇すると、機内の気圧は地上に比べて低くなります。旅客機の客室内は、通常、地上の気圧よりもやや低い状態(高度2,000メートル程度に相当する気圧)に保たれるよう調整されていますが、それでも地上とは異なる気圧環境になることに変わりはありません。
歯の内部には「歯髄」と呼ばれる神経や血管が集まった組織があります。すでに虫歯や過去の治療によって歯髄に何らかの炎症や気泡が生じている場合、上昇時の気圧低下によって、歯の内部の圧力と外部の気圧との差が生じます。この圧力差により、歯髄内の圧力が相対的に高くなり、神経を刺激することで痛みが生じるのです。
これは特に、すでに虫歯の治療経験がある歯や、詰め物の下にわずかな空洞や気泡が残っている歯に起こりやすいとされています。
副鼻腔の圧力変化による関連痛
上顎の奥歯の根は、副鼻腔(上顎洞)のすぐ近くに位置しています。気圧の変化は副鼻腔内の圧力にも影響を及ぼすため、特に副鼻腔炎などで粘膜に炎症がある場合、上昇や下降の際に副鼻腔内の圧力調整がうまくいかず、その影響が奥歯周辺に波及して痛みを感じる「関連痛」が起こることがあります。これは「航空性副鼻腔炎」に伴う歯の痛みとしても知られています。
気圧変化のタイミングによる違い
飛行機が上昇するとき(気圧が低下するとき)は、歯の内部の空気や気泡が膨張しやすく、痛みが生じやすいとされています。逆に、着陸のために降下するとき(気圧が上昇するとき)は、圧力の変化の方向が逆になるため、痛みの感じ方が異なることもあります。
機内の乾燥による影響
機内は非常に湿度が低く、乾燥した環境です。この乾燥により唾液の分泌量が減少しやすくなり、口腔内の自浄作用が低下します。すでに軽度の炎症がある歯ぐきや、知覚過敏の症状がある歯にとっては、この乾燥がさらなる刺激となり、痛みや違和感を感じやすくなることがあります。
ストレスや緊張による影響
飛行機の搭乗自体に不安や緊張を感じる方は、無意識のうちに歯を食いしばってしまうことがあります。この食いしばりが歯根膜に負担をかけ、痛みや違和感につながることも考えられます。
航空性歯痛が起こりやすい歯の状態
以下のような状態にある歯は、気圧の変化による痛みが起こりやすいとされています。
・虫歯が進行している、あるいは神経に近い部分まで達している
・過去に神経の治療を受けた歯
・詰め物や被せ物の下にわずかな隙間や気泡がある
・治療が完了していない、途中段階の歯
・副鼻腔炎など、鼻の疾患がある場合の上顎の奥歯
飛行機での歯の痛みを予防するための対策
搭乗前に歯科検診を受けておく
海外旅行や長距離のフライトを予定している場合は、事前に歯科医院で検診を受け、虫歯や治療途中の歯がないかを確認しておくことをおすすめします。特にすでに虫歯がある場合は、搭乗前に治療を済ませておくことで、気圧変化による痛みのリスクを軽減できます。
詰め物や被せ物の状態を確認する
過去に治療した詰め物や被せ物がある場合、劣化や隙間がないかを事前にチェックしてもらうと安心です。
副鼻腔炎などの鼻の疾患を治療しておく
副鼻腔炎や花粉症などの症状がある場合は、耳鼻科で相談し、鼻の通りを整えておくことで、気圧変化による関連痛のリスクを軽減できる可能性があります。
機内での水分補給を心がける
機内は乾燥しやすい環境であるため、こまめに水分を摂ることで、口腔内の乾燥を防ぎ、唾液の分泌を保つよう心がけましょう。
リラックスして搭乗する
搭乗時の緊張による食いしばりを防ぐため、深呼吸をする、リラックスできる音楽を聴くなど、心身を落ち着ける工夫を取り入れるのもよいでしょう。
実際に機内で歯が痛くなってしまったら
唾を飲み込む、あくびをする
耳抜きの要領で、唾を飲み込んだり軽くあくびをしたりすることで、気圧の変化への適応を助けることができる場合があります。
市販の鎮痛剤を活用する
強い痛みがある場合は、事前に準備しておいた市販の鎮痛剤を使用することで、一時的に症状を和らげることができます。
患部を刺激しないようにする
痛みがある間は、患部を舌で触ったり、硬い食べ物を無理に食べたりすることは避けましょう。
着陸後、症状が続く場合は早めに受診する
着陸後も痛みが続く場合は、現地の歯科医院、あるいは帰国後にかかりつけの歯科医院を早めに受診し、詳しい検査を受けることをおすすめします。
まとめ
飛行機で歯が痛くなる「航空性歯痛」は、気圧の変化によって歯髄内の圧力が変化したり、副鼻腔への影響が奥歯に波及したりすることで起こる、実際に存在する現象です。特に虫歯が進行している歯や、治療途中の歯、副鼻腔炎がある場合に起こりやすいとされています。搭乗前に歯科検診を受け、気になる歯の治療を済ませておくことが、快適なフライトを過ごすための大切な備えとなります。旅行の準備の一環として、ぜひ歯の状態にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
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